青森から横浜までの航海の日。どこにも寄港せずに一直線だ。船で過ごせる最後の日となる。
自分の家のようにくつろいだ部屋。朝起きると部屋についている窓辺に必ず座って(もちろん開く窓ではない)外を眺めるのが日課になった娘。思わぬアップグレードで窓付きの部屋になったが、本当によかった。
今日の朝食は子ども向けにクルーズ船のクマの着ぐるみキャラクターが来るという特別な朝食を申し込んであった。家族のだれも特にこのクマに思い入れはないが、やはり着ぐるみがくると娘は喜んでいた。
予想外だったのは、クマの耳のカチューシャを大人も渡されて「さあ、みんなつけてください」という圧が強く、虚無の顔で大人がみなクマの耳のカチューシャをつけていたことだ。ちなみにうちの娘はカチューシャが大きすぎてつけられず、両親だけがつけるという謎の状況に。

朝食は特別にクマの形をしたホットケーキだったが、出てくるのがあまりに遅くて結局いつもの大好きな丸パンを食べて満足した娘。最終的には少しホットケーキをかじっていたが、まぁそういうもんだ。
船の中は最終日らしいパーティーやイベント三昧という感じだった。天気も最高だったので、デッキに出てお散歩したり、アイスを食べたり。
お昼にはこれまで食べる機会が少なかったハンバーガーとピザをはしごしてみたり。
何度も行き来した長い廊下で撮った写真も、今見ると娘があまりにも小さくてびっくりする。こんな子をクルーズ船に乗せて旅していたのか!?
デッキの最上階は景色を見ることしかやることがないから人が全くいなくて、貸し切り状態。もうみんな船からの景色には飽きてしまったのだろうか。まぁ確かに海しか見えないのだけども。
昔から風が大好きな娘は、時折吹く強い風に歓喜して大笑い。風に乗って飛んでいきそうなくらい軽かったのを思い出す。
全く興味はないが絵画のギャラリーにも初めて入ってみた。いくつかの作品が売却済みになっていることに驚く。それなりの値段がするものだが、富豪というのは本当にまぎれているものなんだ。

最終日の夕飯。全員が船内にいて、最後の日のスペシャルメニューなのでいつもよりすごく混んでいた。
また、下船の前の日に大きな荷物を回収され、下船時には荷物を持って歩くことがないように手配されている。そのため翌日に使わない荷物はすべてスーツケース等にしまわなければならない。その回収時間も事前に決まっているものだから、スケジュールに合わせて夕飯に来るとどうしても混むのだと思う。
その荷物を事前にパッキングするというのがまた厄介で、服はまだしも、化粧品など意外と手元にないと困るかさばるものも入れなくてはいけない。
もちろん事前に知らされているため、1泊分のセットを別途持ってきてはいたが、クルーズ船ならではの持ち物だ。
なによりこれまで我が家のようにくつろいていた部屋なので、いろいろ使い勝手がいいように物が置いてある。すべてを片づけなくてはいけないと思うと、少し寂しくもあった。
夕食は混んでいたからというのと、船内スタッフによるありがとうパレードのようなものがあって、厨房に人が足りなかったのか、出てくるのがめちゃくちゃ遅くて、悪いがすべて用意してからパレードしてくれよ…と思うくらいだった。
子どもがいるとこういう予期せぬ待ち時間はつらい。幼いながら割と待てる子だったが、子どもが食べるはずの食事もずっと出てこず、ひたすら丸パンを食べていた。丸パン好きすぎたからいいんだけど。さすがに時間を持て余して(親もまだ食べられてないし)、禁断のタブレットで動画を映した。動画に頼ることを避けてきたのでやむを得ない。
しかし、動画に慣れていなさ過ぎて割とすぐに飽きてしまう。言葉が分からなくても楽しめそうなものを見せたがいまいちなようで、まず子どもの好みを知るところから始めなくてはいけなかった。
そうしてやっと現れたステーキは美味しかった。ぐずるので急いで食べたけども。

クルーズ船の食事は思ったより美味しかったのですごく良かった。子どもが食べられるものを少しだけ取ることができるブッフェも子連れには頼もしい味方だった。
すべてが終わった夜。真っ青なプールエリアには楽しかった空気が残ったまま、皆が返っていく姿を見送っていた。楽しかった非日常が終わろうとしている。

横浜港に到着した朝。いつものように窓辺に張り付いている娘。今日でこの船ともお別れということもよくわかっていないであろう。

部屋によって下船時刻が異なるため、早い人はかなり早朝から外に出て帰っていく。我々は一度時間を調整してもらって9時ごろの下船になっていた。
いつものようにブッフェ会場で朝食を食べ、待機する部屋に行く。朝食の時点でこれまで使用していた部屋を空にしなければいけないので、またあわただしい。
待機部屋から出て、船を下船するとき、これまでお世話になったスタッフの方、朝食の時娘の相手をしてくれていたミシェルさんなど、それまで娘が小さいからという理由でそれ以外の理由なく「かわいい。かわいい」と可愛がってくれたスタッフの方がたくさんいた。
こちらからしたら顔は見覚えがあるので、知らない人よりは丁寧に挨拶するが、もちろん向こうからしたらたくさんいるお客さんの中のひと家族なので、対応は全員に対して同じだ。日本人同士のコミュニケーションよりこの辺りはライトに感じる。日本人同士って意外とそっけないようで、短期間で私とあなたは知っている同士ですよね、となりがちな気がする。
クルーズ船の旅は本当に子どもにぴったりだった。たくさんの場所に行き、たくさんの国の人と触れ合い、初めてのことしか体験しなかったと思う。
もちろん、覚えていないと思う。友人の中には、覚えていない年齢に旅行に行ってどうするの、という人もいるが、まぁそれも一理ある。とはいえ、経験というのは脳に刻まれる。覚えていなくても、経験があるかどうかで、引き出しが変わると思う。
また大きくなってもいけるといいな。船で色々なところを回れるくらい平和な時間が続きますように、というのも思う。
そしてこのコラムを書くことにより、1歳だった娘の写真を改めてみて、赤ちゃんから幼児になる中間のかわいさがたくさん収められていてよかったなと思う。びっくりするほど景色の写真がなく、すべて娘(と、少しの食事の写真)だった。逆にここに掲載できそうな写真がすくなくてちょっと笑った。